anecdote01
2007 / 09 / 13 ( Thu )










僕は彼に嘘しか話せなかった。
「カノジョはいるの?」
チェーンの居酒屋の片隅で彼に聞かれた。
「いますよ」
当たり前じゃないですか。という語感を持たせて僕は嘘を言った。
恋人はいない。でもセックスフレンドはいる。「カノジョ」じゃなくて「カレ」だけど。
「ふふっ」
僕の上司は左手薬指の結婚指輪を光らせながらビールを一口飲んだ。
「何がおかしいんですか?」
僕は彼の結婚指輪に嫉妬した。
「俺にカノジョがいたら、おかしいですか?」
部署内で最年少の僕は彼に甘えた。
飲み会での無礼講は使える。
「おかしくないよ」
彼は仕事では見せない笑顔を僕に向けてくれた。
「ただ、お前のカノジョって、どんな子かなと想像したら、おかしくて」
「どうしてですか?」
「十中八九当たってる自信があるからね」
八つ年上の彼のウィンクはウィンクというよりも、片目をつぶる姿が様になると言った風情があった。
「・・・じゃあ、言って見て下さい。当たっているかどうか僕が確かめてあげます」
会社では「俺」と決めていたのに「僕」と言ったような気がしたが、気にしていられなかった。それは入社して二年も彼の下にいるのに彼は僕の嘘しか知らないと僕自身が痛いほどに知っているからだ。
「年上だろう?」
ゆったりと彼が笑うから、僕は不承不承、頷いた。彼と僕の為に。
「やっぱり」
ニヤリと彼が笑みの種類を変えた。
「お前は年上に可愛がられるタイプだよ」
「そうかな?」
あなたも?
僕を可愛がってくれる?
「甘え上手だからな」
少し酔っている彼が、これ以上の酔態を見せないことを知っていて僕は彼のコップにビールを注いだ。
もっと酔え。
酔って立ち上がれないくらい泥酔してしまえ。
毎回、そう思って、毎回、僕の計画は失敗する。
僕はベロベロに酔って、でも彼は僕を家は送ってはくれず、僕は泣きながらセックスフレンドに片っ端から電話をかけて、すぐに僕の元に来てくれる「カノジョ」を探す羽目になるのだ。
「取引先の子だろう?」
彼が左手薬指の結婚指輪を光らせて笑う。
「それは言えません」
含みを持たせて僕は言った。
これは嘘にはならないだろう。







20070910 fin





selenight


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